石橋を叩いて砕く

チェ・ウニョン『砂の家』(古川綾子 訳)を読みました。*1
ぶきようで臆病な三人の恋愛譚。どちらかというと踏みつけにされる非力と、その痛みを知りながらより弱いものを打つことを躊躇わない無慈悲とがたんたんと描かれており、厳しい。まじ厳しい。さすが拘束したあげく手首をノコギリで切り落とす映画*2の国のものがたり。
“三人という集まりのなかでは誰かしらが疎外感を抱かざるをえない”とは同書に収録された『告白』に見つけたことばで、二卵性のふたごのような本作の語り手にもそのような傾向が見られます。執着を抱くことさえままならない、若いみそらで老成る原因はDVをはじめとする大人による暴力で、ものがたりは信頼できない語り手による叙述サスペンスのようそうをていしてゆくのでした。しんどい。遅くとも高校卒業までに済ませておけたなら、あるいは三十路すぎてから出会っていれば。
途中あんまり苦しくて、せめて、happy for now で頼むし、と、願った、そのとき、ふとページの隅に印字されたタイトルが目に入り*3、わかり、猛烈に寂しくなった。砂の家とかなんぼでも作りなおせるからおもろいのに。悔しい。家父長制も兵役も女性蔑視も、たぶんアジアンヘイトもバカみたい。グエムルに食われろ。*4

「好きな人の心がいちばん素敵な家だとおもいます」
冬のソナタ』より

*1:短篇集『わたしに無害なひと』収録

*2:『インサイダーズ/内部者たち』(2015) ウ・ミンホ監督脚本

*3:書名をはじめ、タイトルはそんなでもなく、スルーつか、そっか、読む前に覚悟をな……親切か…

*4:グエムル-漢江の怪物-』(2006) ポン・ジュノ監督脚本