All Lives Matter?

『ドライブ・マイ・カー』を観ました。妻を亡くした俳優が舞台に復帰するまでのおはなし。抱擁シーンのうつくしい映画でした。廊下の片隅で、公園での立ち稽古で、雪に埋もれた廃屋を見下ろす丘で、舞台の上で、愛情のこもった抱擁が行われます。

とはいえだいぶつらい。持つものを持たざるものが癒す系。あのつたなくも慈しみ深い抱擁よ。不均衡な関係にあっても情はうつるものだけれど。かのじょもまた癒されたようなので、win-winではあるけれど。主導権はつねに家福にあった。ジャッジし、承認や許可を与えても、隣に座ってもいいかと尋ねるようなことはしなかった。聞きたいとおもえば尋ね、聞きたくないとおもえば避け、「覚えていない」のひとことで無に帰しもする。救われたいとおもえるようになれてよかったけれど。妻だって救われたかっただろうに。


ところで本作、ハラスメントの二次関与*1についての公式アナウンスはされないようでざんねんでした。
ただいくつかのインタヴュには目指すところのあるようすがうかがえました。

www.cinra.net
“「もし少しでも嫌だと思えば、言ってくだされば撮影を止めます」ということは、ご本人にお伝えして、全体にも共有しました。”
 

www.kaminotane.com
“一人ひとりが作りながら変わっていかなくてはいけない。その変わっていく一つの実例として『ドライブ・マイ・カー』があるんだとも思っています。”
 

じゃっかん、「Not All 映画業界」的ではありますが、ここからの変化を歓迎しますし、応援します。こうした積み重ねがやがて関係者としての批判やらクレジットからの削除などの対処を容易くするのでしょう。

 
“責任と名誉の問題です。どんなに気が進まなくても、僕と片桐さんは地下に潜って、みみずくんに立ち向かうしかないのです。”
村上春樹『かえるくん、東京を救う』より
 

うん。映画、がんばロー。

 

*1:本作プロデューサーと、協力にクレジットされている劇団について。https://twitter.com/waka__chang/status/1430435847023722499